「債務整理」迂回融資の損害賠償

これ
B5
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主文

1 被告Aは,原告訴訟引受人に対し,金6億7912万1687円及びこれに対する平成14年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金9018万9105円及びこれに対する平成14年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

主文第1項及び第2項同旨

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第2 事案の概要

本件は,東京商銀信用組合(以下「東京商銀」という。)が原告となって,被告A及び被告Bに対し,被告ら両名が東京商銀の理事であった当時,当時東京商銀の理事長であったCが東京商銀を代表して行った有限会社東京サプライ(以下「東京サプライ」という。)に対する別紙1(省略)記載<1>ないし<5>の各融資(以下「本件融資1」という。)及び有限会社東信プロパティー(以下「東信プロパティー」という。)に対する別紙2(省略)記載<1>ないし<7>の各融資(以下「本件融資2」という。)により,東京商銀が損害を被ったとして,中小企業等協同組合法(以下「協同組合法」という。)38条の2第1項に基づき,被告Aにつき本件融資1及び本件融資2(以下併せて「本件各融資」と総称する。)の回収不能額合計7億6931万0792円及びこれに対する遅延損害金の支払を,被告Bにつき別紙1<1>の融資(以下「本件融資@」という。)の回収不能額9018万9105円及びこれに対する遅延損害金の支払を,それぞれ求めて訴訟を提起したが,その後,東京商銀から上記各損害賠償請求権を譲り受けた原告訴訟引受人(以下「原告引受人」という。)に訴訟引受けがなされた事案である。
なお,東京商銀は,後記1(5)イのとおり,本件訴訟から脱退した。
1 前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(後掲)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 当事者
ア 東京商銀
東京商銀は,昭和29年2月24日に協同組合法に基づいて設立された信用協同組合であるが,平成12年12月16日,金融再生委員会から,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律8条1項に基づき金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けた。(争いがない。)
イ 被告ら
(ア) 被告A
被告Aは,昭和63年5月17日に東京商銀の理事に就任し,平成6年5月24日から平成9年6月16日まで常務理事,平成9年6月17日から平成12年12月16日まで副理事長の地位にあった。その間の平成6年6月8日から平成8年6月30日まで総務部長を務め,その後,平成9年6月17日から副理事長を務めた。(甲4号証,丙13号証)
(イ) 被告B
被告Bは,平成6年5月24日に東京商銀の理事に就任し,平成9年6月17日から平成11年12月31日まで常務理事の地位にあった。
その間の平成6年6月8日から平成8年6月ころまで東京商銀本店長を務め,その後,同総務部長を務め,平成9年6月17日から人事部長,秘書室長を兼任していた。(甲4号証,丙14号証)
ウ 原告引受人  
原告引受人は,預金保険機構の全額出資により設立され,預金保険機構からの委託等により破綻金融機関等からの貸付金債権等の買取り及びその管理・回収業務等を行う株式会社である。(弁論の全趣旨)
(2) 本件各融資に至る背景事情
ア 東京商銀関連会社
(ア) 東京サプライ及び東信プロパティー  
東京サプライ及び東信プロパティーは,いずれも平成11年7月16日に,後記(イ)のとおり,東京商銀の理事長であったCらの指示によって,迂回融資を実施するために設立された東京商銀の関連会社(以下2社を併せて「東京商銀関連会社」という。)である。(以上,甲10号証,同11号証,同69号証,弁論の全趣旨)
(イ) 東京商銀関連会社の経営実態
東京商銀関連会社における取締役(代表者)は,名目的なものであり,Cの指示に従い職務を執行していたにすぎず,報酬は無報酬か,あるいは名義借料的なものが支払われていたにすぎなかった。
また,東京商銀関連会社は形式上事務所を賃借していたが,同社には従業員が存在せず,その電話は,転送装置により東京商銀の総務部に転送され,会社の印鑑・通帳等については,東京商銀の総務部が保管・管理していた。
さらに,東京商銀関連会社の貸借対照表(平成12年12月31日時点)上の資産関係の大半は,後記イ(ア)のアイワグループに対する貸付金であり,その負債関係の大半は東京商銀からの借入金であった。
さらに,その損益(平成12年12月31日時点)も,東京商銀からの借入金の利率とアイワグループに対する貸付金の利率の差額(いわゆる利ざや)が大半を占めており,その一部をCが個人的に費消するなどしていた。
このように,東京商銀関連会社は,Cの指示によって運営されており,後記イ(ウ)の迂回融資等のため設立された名目上の会社(いわゆるぺーパーカンパニー)であった。
(以上,甲10号証ないし同19号証,丙10号証,弁論の全趣旨)
イ 東京商銀とDとの関係
(ア) D及びアイワグループ  
Dは,株式会社アイワコーポレーション(以下「アイワコーポレーション」という。)を中心とするアイワグループ(主な業務は金融業・ゴルフ場経営・不動産業)の実質的な所有者(オーナー)であった。
アイワグループの関連会社には,アイワコーポレーションの外,株式会社パルパル(以下「パルパル」という。),株式会社ドルフィンリビング(以下「ドルフィンリビング」という。),神戸相生ゴルフ株式会社(以下「神戸相生ゴルフ」という。)などが存在していた。(以上,甲25号証,同27号証,同50号証,同69号証,弁論の全趣旨)
(イ) 東京商銀によるアイワグループに対する融資の開始
東京商銀は平成4年12月25日にアイワグループの一社である神戸相生ゴルフに20億円の融資を実行したが,その時から,東京商銀とDとの間に取引関係が生じた。
上記融資に係る与信申請書(東京商銀内部においては,後記(3)イのとおり,融資の稟議の際には,与信申請書と題する書面の回付が行われていた。)には,上記融資金の内3億円が松本祐商事株式会社(以下「松本祐商事」という。)に対する返済に宛てられ,その返済金が東京商銀が実質無担保で融資していた松本祐商事に対する債権の弁済に充てられるとの記載があった。
また,同申請書には,取扱上の問題点として,神戸相生ゴルフ,東城ゴルフ株式会社などアイワグループの総収益に対し,現状での条件による返済は厳しいものであること,他からの110億円の借入負担の予定を考慮すると返済原資に疑問が残ることなどの記載があった。
被告Aは,同申請書の副理事長の欄に押印をし,被告Bは,同申請書の常務理事の欄に押印をした。(以上,甲50号証,弁論の全趣旨)
(ウ) 代表訴訟の提起と不良債権買取りによる付け替え
その後,Cは,自己が本店長時代に融資を実行した松本祐商事等に対する貸金債権の未回収部分について,平成7年に代表訴訟が提起され,その経営責任の追及を受けたことから,平成11年6月9日に,アイワグループに対して,上記貸金債権を買い取らせるための資金の融資を実行し,アイワグループが,東京商銀が松本祐商事等に有する貸金債権(約51億7000万円)を買い取って,東京商銀が松本祐商事等に有する貸金債権をアイワグループに対する融資に付け替えた。
その融資の内訳は,アイワグループに属する株式会社太陽マリーナに対する20億円の融資,同株式会社エイ・エヌ・アイに対する17億7000万円の融資及び同株式会社外浦造船所に対する14億円の融資であり,上記3社は,東京商銀から受けた融資金により,東京商銀が松本祐商事に有する貸金債権(37億6871万3758円)及びシティリース株式会社に有する貸金債権(13億9575万9247円)を,それぞれ買い取ることとなった。
なお,上記各融資に係る各与信申請書には,東京商銀が松本祐商事等に有する貸金債権について,担保物や保証人からの回収も含めて回収可能性が極めて低いこと,そこで,この債権について,上記3社に融資をし,その融資金において,貸金債権の買取りを実行して回収を図ること,上記3社に対する融資については,現在作成中の事業計画(アイワグループのゴルフ場の宅地化及び分譲)により回収を図ることなどが記載されていた。
このように,稟議の際から上記3社に対する融資は回収が危ぶまれていたことに加えて,上記3社に対する融資の審査を担当した当時の東京商銀の常務理事兼審査部長のEは,上記3社に対する融資について,事業計画に実現性がなく回収可能性がないとの懸念を抱き,そのような融資を行うべきではないと考えていた。
しかし,Cは,Eに対して,松本祐商事に対する東京商銀の不良債権をアイワグループに買い取らせる方法以外に処理する手段がなく,そうしない限り代表訴訟に敗訴すると述べて融資を実行するよう指示したため,Eは,やむなく東京商銀の本店長等に,上記不良債権の買取資金の融資を指示した。
被告Aは,上記3社に対する融資に係る各与信申請書の副理事長の欄に押印をし,被告Bは,その各与信申請書の常務理事の欄に押印をした。
(以上,甲7号証,同66号証ないし同68号証,丙1号証,同7号証)
(エ) 貸金債権の移転に対する見返り融資
東京商銀は,平成11年5月13日,パルパルに合計16億円の融資を実行した。その際の与信申請書には,東京商銀の松本祐商事に対する融資金約45億円をアイワグループが肩代わりをすることを条件として上記16億円の融資の申請に至ったことや10億円の融資の実行については松本祐商事に対する融資金の肩代わりと同時とすることが記載されており,上記16億円の融資は,前記(ウ)の不良債権の買取りに関する見返りとして実施されたものであった。
Eは,上記16億円の融資にも反対していたが,前記(ウ)と同様にCの指示に従い,上記16億円の融資の実行を指示した。
被告Aは,上記16億円の融資に係る与信申請書の副理事長の欄に押印をし,被告Bは,その与信申請書の常務理事の欄に押印をした。
その後,東京商銀は,平成11年7月,アイワグループに対するさらなる見返り融資を行うために,迂回融資のためのペーパーカンパニーとして東京商銀関連会社(前記東京サプライ及び東信プロパティー)を設立し,東京商銀関連会社は,東京商銀から融資を受け,この融資金をアイワコーポレーションを始めとするアイワグループに対して融資(迂回融資)し始めた。
後記(4)のとおり,本件各融資を含むこれらの迂回融資は,一部株式担保や不動産担保を徴求しているものもあるが,その多くは全くの無担保融資であった。
(以上,甲48号証,同49号証,同57号証,丙1号証,弁論の全趣旨)
(オ) アイワグループの財務状況
Dが実質オーナーであるアイワグループの財務状況は,平成4年12月の神戸相生ゴルフに対する20億円の融資を実行した当時から既にかなり苦しい状態であったが,平成6年2月9日にはアイワコーポレーションと神戸相生ゴルフが不渡りを起こし,さらに平成7年7月28日には,アイワコーポレーションが2回目の不渡りを起こした。
そして,グループの中心であるアイワコーポレーションの平成11年5月31日時点(5月決算)における状況をみると,資産は,繰越欠損金約291億円,債務超過額約291億円に達しており,損益は,当期損失約17億円を計上していた。
同社の平成12年5月31日時点における状況をみても,資産の面は,債務超過額約345億円に達し,損益の面は,当期損失約54億円を計上していた。
平成12年6月には,アイワコーポレーションは,東京サプライに対し,その提出した「借入申込書」の中で,「昨年までは,国民銀行よりつなぎ資金の融資を受け,対処して参りました。しかし,国民銀行の破綻により」資金調達が困難となったと述べた。
また,パルパルについても,前記(エ)の16億円の融資の審査段階において,債務超過状態にあり,かつ,事業収益は見込まれず,返済原資を調達することができない状況であった。
加えて,平成11年8月20日ころの段階では,前記(イ)の東京商銀が神戸相生ゴルフに有する20億円の貸金債権については,東京商銀が,その返済利息分を新たに融資する追い貸しを行い,元本自体はほとんど返済されておらず,当時アイワグループの大半は赤字会社であり,その有する資産にも担保価値が存在するものはほとんどななかった。
さらに,Dの個人資産をみても,ほとんど返済に充てるべき資産は存在しなかった。(以上,甲51ないし同53号証,同58号証,丙1号証ないし同3号証,同7号証)
(カ) C及びDに対する起訴
CとDは,平成13年10月5日及び同月25日,前記松本祐商事に対する不良債権の飛ばしに関連した,パルパルに対する16億円の融資に係る背任の被疑事実により逮捕され,Cは,同年10月25日及び同年11月14日に起訴され,また,Dは,同年11月14日起訴された。(争いがない。)
(3) 東京商銀における融資決裁権限及び融資稟議の手順
ア 東京商銀の融資決裁権限  
平成9年9月1日付け制定(平成12年9月19日付けの改訂前)の東京商銀の貸出等決裁権限規程によると,東京商銀の融資は,その権限を委譲できる場合を除き,全て理事長が決裁を行うこととなっていた。
ただ,同一取引先に対する貸出等の総残高が4億円を越えるもので1億円以上の資金負担を要する貸出案件,同一取引先に対する貸出等の総残高が8億円を越える案件又は決裁権者若しくは審査部長が合議を求めた案件などについては,副理事長を委員長とし,専務理事,常務理事及び審査部長によって構成される融資審査委員会の審理合議が必要とされていた。
また,平成12年9月19日付けの改訂後の貸出等決裁権限規程においても,その権限を委譲できる場合を除き,理事長が全ての融資の決裁を行うとされていたが,純債務額が2億円を超える貸出案件,決裁権者又は融資部長が合議を求めた案件などについては,副理事長を委員長とし,専務理事,常務理事及び融資部長によって構成される融資審査委員会の審理合議が必要とされていた。
しかし,融資審査委員会は,実際上は有名無実化しており,平成11年中旬ころから全く開催されていなかった。
前記(2)イ(ウ)の不良債権買取資金の融資及び同(エ)の16億円の見返り融資は,いずれも融資審査委員会の審理合議案件であったが,実際には同委員会の審理合議を経て決裁・実行されたわ
けではなかった。
また,本件各融資についても,その一部を除き,融資審査委員会の合議案件であったが,後記ウのとおり,融資審査委員会において審理合議されたことはなかった。
(以上,甲20号証の1及び2,丙14号証,被告B本人)
イ 東京商銀の稟議及び決裁の手順
東京商銀においては,融資の申込みがあった場合,通常,@営業店による与信申請書及びその申請理由等を記載した付箋の作成,その他稟議に必要な書類(融資申込書,財務諸表,事業計画書等)の準備,A営業店における稟議の承認(順に稟議の上,最終的に本店長の承認を経る。),B本部審査部(平成12年9月19日以降融資部)の承認(最終的には審査部の副部長及び同部部長の承認),C常務理事,専務理事,副理事長及び理事長の順における承認及び決裁という手順を経て,D融資の実行が行われていた。(丙12号証,弁論の全趣旨)
ウ 本件各融資の稟議及び決裁の手順
本件各融資は,別紙1記載<5>の融資を除き,審査委員会の合議案件であったが,実際に融資審査委員会が開催され,同委員会における審査検討がされたことはなく,持回りで各人が与信申請書に承認印を押印することで融資実行を承認,決裁し,その上で,本件各融資が実行された。(甲23号証ないし同41号証,同44号証ないし同47号証,弁論の全趣旨)
(4) 本件各融資について
ア 本件各融資の概要
本件各融資を含む東京商銀のアイワグループ関連の融資については,現在残高が残っている未回収部分が,合計110億2563万7000円に達している。(以上,甲22号証の1ないし6,同23号証,同24号証,弁論の全趣旨)
イ 東京サプライ分(別紙1)
(ア) 本件融資1の稟議・実行
東京商銀は,東京サプライに対して,本件融資1を実行した。
そして,東京サプライは,これら各融資実行を受けた後,直ちに同額をアイワグループに対して融資している。
その具体的な融資先は,別紙1の「融資内容」の「転貸先」欄記載のとおりである。
Eは,別紙1<1>ないし<3>の各融資の際に,いずれもその資金使途が株式購入資金であって,融資の回収が株価に左右されるため,回収が危ぶまれること,アイワグループの財務状況からみても回収可能性が乏しいこと,大口融資規制に違反するおそれがあることなどから,融資に消極的な姿勢をみせていた。
しかし,Cは,アイワグループに融資をしないと,前記(2)イ(ウ)の不良債権の買取資金の融資も回収できないと考えて,東京商銀関連会社を仲介させて融資を実施するよう指示して,これらの融資を含む本件融資1を実行させた。
すなわち,本件融資1は,東京商銀が東京サプライを仲介させたアイワグループに対する迂回融資であって,前記(2)イ(ウ)の東京商銀の松本祐商事に対する不良債権の買取りに関連して行われた。
なお,本件融資1の稟議決裁は,各与信申請書に担当者が押印する持ち回り稟議で行われたが,各与信申請書の副理事長の欄には被告Aの押印が存在し,本件融資@に係る与信申請書の常務理事の欄には被告Bの押印が存在する。
(以上,甲25号証ないし同34号証,丙2号証,同3号証,同5号証)
(イ) 本件融資1の保全状況
本件融資1実行時の担保設定状況は,別紙1の「融資内容」の「物的担保」及び「担保明細」欄記載のとおりであり,本件融資@を含む別紙1記載<1>ないし<3>の各融資は,株式を担保に徴求していたが,それ以外は無担保であった。
ただし,担保を徴求したものについても,本件融資@に係る担保株式は,東京商銀から融資を受けた東京サプライが,アイワグループに対し,イ・アイ・イ社の株式を購入する資金として融資したものであり,同社の株式を担保とすることが予定されていた。
したがって,その実態は,株式を担保とした融資であるが,同社の株式は店頭登録株式であり,東京商銀の有価証券担保取扱規準(甲21号証)によると,店頭登録株式の担保評価は無価値とすることとされていたため,その取扱規準からすると,無担保融資と同視されるべきものであった。
また,別紙1記載<2>の融資についての担保株式は,購入予定であった日本エムアイシー社の株式であるが,同社株式も店頭登録株式であり,上記取扱規準によれば,その担保評価は無価値であるから,無担保融資と同視されるべきものであった。
その後,東京商銀は,平成13年に入り,本件融資1について,事後的に不動産担保を徴求したが,これらを含めた本件融資1に係る担保設定状況は「現在の状況」の「現在担保」欄記載のとおりであり,その時価評価額は「現在保全額(時価)」欄記載のとおりであって,5件合計で1億4238万9208円相当しかない。
そして,本件融資1に係る未回収額は5件合計で6億1400万円であるから,本件融資1は,その未回収額のうち4億7161万0792円の保全不足となっている。(以上,甲23号証,同25号証ないし同29号証,丙2号証ないし同4号証,弁論の全趣旨)
(ウ) 本件融資1の資金使途
本件融資1のうち,別紙1記載<4>及び同<5>の各融資はいずれも資金使途が不明であった。
また,本件融資@並びに別紙1記載<2>及び<3>の各融資の資金使途は,いずれも株式(店頭登録株)購入資金の融資であり,購入株式を担保に実行されたものであって,東京商銀の「有価証券にかかわる融資方針等について」(甲54号証)によると,「有価証券の購入を目的とする融資の取り上げは,原則として行わない。」とされ,例外として許されるのは「@旧来よりの取引先からの申し込みであること。」,「A長期保有を目的とした,資産形成の為のものであること。」,「B購入有価証券を当該貸出の担保とせず,既存担保またはで別途徴求担保で債権保全がなされること。」の3要件を満たす場合に限るとされているが,上記各融資の資金使途は,新規先からの申込みである上,短期売却目的であったし,購入有価証券のみを担保とし,かつ,同担保は前記(イ)のとおり東京商銀においては無価値と評価すべき店頭登録株であったことから,上記各融資は,東京商銀の内規に違反していた。
(以上,甲21号証,同25号証ないし同29号証)
(エ) 本件融資1の返済計画に関する検討状況
本件融資1の返済計画に関する検討状況については,東京サプライからどのように回収するべきか特に検討された形跡がなかった。
また,迂回融資先であるアイワグループから,決算書等を徴求した形跡もなく,その財務状況については特に検討されていなかった。
さらに,返済計画についても,別紙1記載<1>ないし<3>の各融資については,「株売却資金で返済する」旨の記載が与信申請書にあるものもあるが,それ以外特に検討された形跡はなかった。(以上,甲25号証ないし同34号証,弁論の全趣旨)
ウ 東信プロパティー分(別紙2)
(ア) 本件融資2の稟議・実行
東京商銀は,東京サプライに対して,本件融資2を実行した。
そして,東京サプライは,本件融資2の各実行後,直ちに同額をアイワグループに対して融資している。
その具体的な融資先は,別紙2の「融資内容」の「転貸先」欄記載のとおりである。
本件融資2も,東京商銀が東京サプライを仲介させたアイワグループに対する迂回融資であった。
被告Aは,本件融資2について,いずれも各与信申請書の副理事長の欄に押印をした。(以上,甲35号証ないし同47号証,弁論の全趣旨)
(イ) 本件融資2の保全状況
本件融資2の各実行時においては,東京商銀は,物的担保を全く徴求していなかった。
そして,本件融資2に係る未回収額は7件合計で2億9770万円であり,その未回収額全額について全く保全されていない状態である。
(以上,甲24号証,同35号証ないし同47号証,弁論の全趣旨)
(ウ) 本件融資2の資金使途及び返済計画に関する検討状況
本件融資2の資金使途については,各与信申請書には「諸支払資金」としか記載がなく,具体的な資金使途を検討した形跡はなかった。
また,本件融資2の返済計画に関する検討状況については,東信プロパティーからどのように回収するべきか検討された形跡もなかったし,迂回融資先であるアイワグループから,決算書等を徴求した形跡もなく,その財務状況について特に検討された形跡はなかった。(以上,甲35号証ないし同47号証,弁論の全趣旨)
(5) 原告引受人による訴訟引受け及び東京商銀の脱退
ア 損害賠償請求権の譲渡
東京商銀は,平成14年4月15日,原告引受人に本件各損害賠償請求債権を譲渡し,被告らに対してその旨の通知をし,当該通知は,同年5月18日に被告Aに,同月20日に被告Bに,それぞれ到達した。(弁論の全趣旨)
イ 原告引受人による訴訟引受け及び東京商銀の脱退
東京商銀は,本件訴訟係属後の平成14年5月30日,原告引受人に対して,訴訟引受の申立てをし,当裁判所は,同年7月30日,原告引受人に対し,本件訴訟を引き受けることを命ずる決定をした。
その後,東京商銀は,同年10月31日の口頭弁論期日において,被告らの同意を得て,本件訴訟から脱退した。(以上,当裁判所に顕著)
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件各融資について,被告A及び被告Bが,それらの実行を承認した点,あるいはそれらを実行させないように監視し,融資が実行された場合に直ちにその回収を図るなどの措置を講じなかった点が,信用組合の理事の善管注意義務及び忠実義務に違反するものといえるかどうか(被告Bについては,本件融資@についてのみ善管注意義務及び忠実義務違反が問題となる。)(争点1)。
ア 原告引受人
(ア) 本件各融資の違法性及び被告らの認識可能性
a 本件各融資の違法性
前記1(4)のとおり,本件各融資は,当初から回収可能性に対する検討がないこと,実際にも回収可能性が欠如していたこと,不良債権の飛ばしあるいはそれに対する見返りという違法な目的で行われたこと,大口融資規制を実質的に潜脱し,信用組合の経営の健全性を脅かすものであったことから,このような融資が理事の善管注意義務及び忠実義務に違反する違法な融資であることは明らかである。
b 認識可能性
被告らは,本件各融資の違法性を事前に認識し又は認識することができた。
すなわち,東京商銀の松本祐商事に対する不良債権の飛ばしに関連するアイワグループに対する融資は,前記1(2)イ(エ)のパルパルに対する16億円の融資から開始されており,被告らは同融資を承認し,その与信申請書の記載を当然に認識できたのであるから,その後のD関連のアイワグループに対する本件各融資の違法性を当然に認識し得た。
(イ) 被告らが本件各融資を承認した点(被告Bは本件融資@のみ)に係る善管注意義務及び忠実義務違反
a 被告らが本件各融資を承認した事実
被告らは,違法な本件各融資について,それぞれ同各融資に係る与信申請書の承認欄(被告Aについて副理事長の欄,被告Bについて常務理事の欄)に押印して,これを承認しており,融資の実行を承認した点について善管注意義務及び忠実義務違反が認められることは明らかである。
b 被告らの主張に対する反論
なお,被告らは,被告らが与信申請書の回付を受けた時点においては,既に融資は実行されており,被告らが融資の実行を承認した事実はないと主張する。
しかし,@被告Bは,本件融資@についてCらの背任事件の捜査の際に検察官に対しては事前に与信申請書の回付を受けたと供述していたにもかかわらず,本件訴訟において事後稟議であると主張していること,A融資稟議と融資実行に関しては,短時間による事務処理が可能であり,時間的間隔から融資実行後に与信申請書の押印したと認めることはできないこと,B被告らは常勤役員として東京商銀に常駐しており,与信申請書に押印することに何らの支障もなかったことから,被告らの主張は事実に反するものである。
(ウ) 被告らが違法な本件各融資の実行を放置し,実行後においてもその回収を図るなどの措置を講じなかった点
a 被告らの善管注意義務及び忠実義務の内容
また,被告らは,東京商銀の理事として,当然に理事長であるCの違法行為を監視すべき義務を負うところ,仮に,被告らが融資実行後に与信申請書に押印したとしても,本件各融資の実行前には,本件各融資が違法な融資であることを知り得たのであるからこれを阻止すべき義務があり,融資実行後には速やかに融資の回収を行うなど東京商銀の損害を最小化すべき義務があったのに,これを怠っており,被告らが本件各融資を阻止しなかった点,あるいは本件各融資の回収を図るなどの努力を怠った点について,善管注意義務及び忠実義務違反が認められる。
特に,被告Aは,本件各融資について繰り返し副理事長欄に押印してこれを承認しており,その責任は重い。
b 被告らの主張に対する反論
被告らは,本件各融資を阻止することが不可能であったこと,被告らは実際にも本件各融資に反対したが,Cから解雇を示唆されるなどしたため,これに反対することなど不可能であったと主張するが,当時Cの違法行為に対する代表訴訟の提起などの責任追及の動きが存在し,このような当時の状況からすると,被告らにおいて,理事会を招集してD関連のアイワグループに対する融資の審査を厳格にする体制を構築するよう提言したり,さらに総代会等において,Cを解任を求めるなどの方法が考えられた。
しかるに,被告らは,違法な本件各融資を阻止するための真摯な義務を怠ったまま,単に自己保身を図って,結局本件各融資の実行を漫然と放置し,その後も,これを是正する努力を怠っていたのであり,このような被告らの主張から,善管注意義務及び忠実義務違反を免れることはできない。
(ウ) 小括
以上によれば,違法な本件各融資が実行された点については,被告らが事前にこれを承認した点,あるいは,これを阻止せず,また事後的に速やかな回収を図るなどの努力を怠った点について,善管注意義務及び忠実義務違反があることは明らかである。
イ 被告ら
被告らは,以下のとおり,本件各融資の実行を阻止し得なかったのであり,被告らには,理事としての善管注意義務及び忠実義務違反がない。
(ア) Cの関与による本件各融資の事前阻止の可能性の欠如
a 本件各融資に係るCの関与
本件各融資は,当時東京商銀の理事長であったCの指示によるものであり,これに反対して融資を阻止することはできなかった。
すなわち,Cは,前記1(2)イ(ウ)のとおり,代表訴訟による責任追及を免れる意図で,Dの協力を得て東京商銀の松本祐商事に対する不良債権の飛ばしを行ったが,そのアイワグループに対する融資の返済が滞った場合には不良債権の飛ばしの実態が表面化することから,Cは,Dに対して,返済が受けられるように協力すること及び見返りのための融資を行うことを余儀なくされた。
さらに,Cは,Dが東京商銀から融資を受けて購入した株式の一部を譲り受けたり,東京商銀関連会社が迂回融資を行った際に本来関連会社が受ける利ざやを個人的な飲食等に費消するなどの背任行為を行っていた。
このように,当時の東京商銀の理事長であったCが,アイワグループに対する融資を積極的に行っており,同人の指示に背いて,これを阻止することは不可能であった。
b 被告らの反対
被告Bは,本件融資@の以前からDに対する融資に反対しており,本件融資@については,後記(ウ)のとおり,融資実行後に与信申請書に押印したが,その後も融資に反対していたため,与信申請書が同被告には回付されなくなった。
また,被告Aは,本件各融資に反対していたため,Cから解雇を示唆され,後記(ウ)のとおり,やむなく融資実行後に与信申請書に押印していた。
したがって,被告らが現実に反対しても,本件各融資を阻止することは不可能であった。
(イ) 融資審査担当者等とDの関係による本件各融資回避の可能性
Dは,東京商銀における融資審査や融資実行の権限を有する職員の大半を取り込んでおり,被告らが本件各融資に反対しても,これを阻止することは不可能であった。
すなわち,東京商銀の審査部長,同副部長及び本店長を始めとする融資審査者や融資実行者は,いずれも,Dから,飲食接待等を受けており,アイワグループに対する不正融資に関与し,適正に審査することが不可能となっており,Dの求めに応じて融資が行われる状態となっていた。
そして,最終的な融資決裁権者であるC,審査権限のある審査部長並びに審査及び実行を担当する本店長の3者が融資を承認すれば,他の理事が融資に反対しても融資を行うことは可能であった。
このような状態において,被告らのみが,本件各融資に反対しても,これを阻止することはできなかった。
(ウ) 被告らの実際の関与
被告らが本件各融資に係る与信申請書の回付を受けた時点においては,本件各融資は既に実行されており,既に反対してもこれを阻止することは不可能な状態であった。
本件各融資は,CがDと協議して融資条件を決定し,審査部長らに対して融資を指示して行わせていたことから,本来行われるべき融資の可否や融資条件に関する審査が全く行われておらず,申請後わずか1日程度で融資の実行が行われていた。
そのため,被告らに対する与信申請書の回付は,全て融資の実行後になされており,融資実行前にこれを知って,阻止することは不可能であった。
(2) 被告らの善管注意義務違反等と本件融資1及び同2から生じた損害について,相当因果関係があるかどうか。
ア 原告引受人  
本件各融資は,被告らの本件各融資を承認した点,あるいは本件各融資の阻止,同各融資後に速やかに回収を図るなどの措置を講じなかった点などの善管注意義務及び忠実義務違反により実現されたものであり,本件各融資の回収不能に係る損害との間に相当因果関係があることは明らかである。
なお,原告引受人は,被告Aに対して本件各融資に係る回収不能額7億6931万0792円の賠償金及びこれに対する訴状送達の翌日である平成14年3月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,被告Bに対して本件融資1に係る回収不能額9018万9105円の賠償金及びこれに対する訴状送達の翌日である平成14年3月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,それぞれ求める。
イ 被告ら
本件各融資に係る損害は,被告らの善管注意義務違反等から生じたものではなく,因果関係が存在しない。
まず,被告らが本件各融資を事前に承認した事実はなく,与信申請書に押印したのはいずれも融資実行後であるから,与信申請書に押印した点から損害が発生したとはいえない。
次に,本件各融資後に速やかな回収を図らなかった点についても,DはいわばCの弱みにつけ込んで融資を受けており,Dがそのような経緯で受けた融資の返済に素直に応ずるはずはなく,その融資金を回収することは不可能であった。
さらに,本件各融資を阻止する体制を構築すべき点についても,現実にはDとC及び東京商銀の幹部との関係から,そのようなことは不可能であり,また,理事会や総代会等において,Cの行動を制限することも現実には不可能であった。

第3 当裁判所の判断

1 本件各融資の違法性
本件各融資は,以下のとおり,当初から回収可能性が全くなく,かつ,その点に関する検討も不十分であって,それが回収不能となることにより東京商銀に損害を生じさせる危険が極めて大きい融資であることから,本件各融資の決済及び実行は,信用組合の理事の善管注意義務及び忠実義務に違反する違法な行為であったというべきである。
すなわち,@前記第2の1(2)ア(イ)のとおり,本件各融資の直接の貸出先である東京商銀関連会社は,いずれもペーパーカンパニーであり,東京商銀関連会社の事業収益あるいは資産それ自体から本件各融資を回収する見込みはなかったこと,Aそのため,本件各融資の回収可能性は,その転貸先であるアイワコーポレーション,ドルフィンリビング及びパルパルの各社に対する迂回融資の回収可能性に左右されるところ,前記第2の1(2)ア(オ)のとおり,アイワグループの中心であるアイワコーポレーションが2度の不渡りを起こし,本件各融資の当時には債務超過状態にあって,損益状況も極めて悪化しており,パルパルを始めとするその他の関連会社も大半が赤字会社で,担保となるべき資産もなく,事業収益も挙げられておらず,東京商銀関連会社のアイワグループに対する迂回融資の保証人とされていたDについても返済に充てられる資産を保有しておらず,アイワグループに対する迂回融資を回収する見込みもほとんどなかったこと,B本件各融資の実行時において,前記第2の1(4)イ(イ)及び同ウ(イ)のとおり,その多くは無担保融資であり,徴求した担保も店頭登録株など東京商銀内部において無担保と同視されるものであったこと,C前記第2の1(4)イ(ウ)及び同ウ(ウ)のとおり,本件各融資を実行する際の審査に当たって,資金使途や返済原資の確認,返済計画の検討が具体的に行われた形跡がなく,この点に関する検討がほとんど行われていなかったと認められること,D本件各融資のうち,前記第2の1(4)イ(ウ)のとおり,本件融資@並びに別紙1記載<2>及び<3>の各融資の資金使途は,実質的には株式購入資金であり,東京商銀の内規に反するものであったこと,E東京商銀がアイワグループに対して直接融資した場合に大口融資規制(協同組合による金融事業に関する法律6条,銀行法13条1項)に抵触するおそれがあったことから,東京商銀関連会社に対する本件各融資が実行されており(丙2号証,弁論の全趣旨),実質上大口融資規制を潜脱する目的があったことなどからすると,本件各融資が回収の見込のない融資であり,その点に関する検討も全く行われておらず,東京商銀に回収不能額の損害を生じさせる危険性が高いものであったことから,本件各融資の決裁・実行が,理事の善管注意義務及び忠実義務に違反する違法なものであったことは明らかである。
以上によれば,当時東京商銀の理事長であったCが,前記第2の1(2)イ(ウ)の不良債権の付け替えのための見返り等として,Dの保有するアイワグループに対し,本件各融資の実行を決裁し,これを行わせたものであるから,このようなCの行為が理事としての善管注意義務及び忠実義務に違反することは明らかであるとともに,前記第2の1(2)イ(カ)のとおり,パルパルに対する16億円の融資による背任被疑事件で逮捕・起訴された点から,本件各融資は,刑法上の背任罪に該当するおそれのある違法性の高い融資であったというべきである。
2 被告らの善管注意義務及び忠実義務の内容及び違反の有無(争点1)
そこで,Cが理事の善管注意義務及び忠実義務に違反する違法な本件各融資を決裁し実行させたことを前提に,被告らがそれらの実行を承認した点,あるいはそれらを実行させないように監視しまた融資実行後直ちにその回収を図るなどの措置を講じなかった点について,善管注意義務及び忠実義務違反があったといえるかどうかについて検討する。
(1) 信用組合の理事の善管注意義務及び忠実義務の内容
信用組合の理事は,信用組合に対して,善管注意義務及び忠実義務を負うところ(協同組合法42条,商法245条3項,民法644条,商法254条の3),本件においては,東京商銀の各理事は,理事会による理事長の選任権(協同組合法42条,商法261条,なお,甲1号証の定款第22条2項)や理事長に対する理事会招集請求権限(定款第23条3項)等を通じて,理事長の職務執行を監視・監督する職務を負っており,理事の善管注意義務及び忠実義務の内容として,このような理事長に対する監視・監督義務も当然に認められるべきである。
さらに,被告Aは,副理事長として,理事長を補佐して業務を執行し,また,被告Bは,常務理事として,理事長を補佐して業務を処理するとされていた以上(定款第22条3項),その職務として,理事長の職務の執行を監視する義務があったということができる。
(2) 被告らの監視義務違反の有無及び内容
ア 被告Bの監視義務違反の有無及び内容
(ア) 被告Bの本件融資@の違法性に対する認識
前記1のとおり,本件融資@は違法な融資であったところ,前記第2の1及び証拠(甲25号証,同69号証,丙14号証,被告B本人)によれば,@被告Bは,平成6年6月から平成8年6月まで東京商銀本店長であり,その間に,前記第2の1(2)イ(イ)の神戸相生ゴルフクラブに対する20億円の融資が平成5年ころから延滞に陥り返済に見込みがないことを知り,またDの信
用力を調査し,松本祐商事や国民銀行から多額の借入を受けていたことなどを認識しており,既にアイワグループに対する融資には回収の見込がないことを知悉していたこと,A被告Bは,前記第2の1(2)イ(エ)の16億円の融資が実行された際,同融資に係る与信申請書の記載から同融資に回収の見込みがないことを認識し,また同申請書が事前の説明や審議もないまま稟議に回されるなど東京商銀の内部基準に違反しており,Eに対して,同融資の実行について異議を述べたこと,B被告Bは,本件融資@に係る与信申請書を回付され,その内容を確認し,東京サプライがDに対する迂回融資のためのペーパーカンパニーであることを認識し,さらに,本件融資@が店頭登録株の購入という投機取引の資金の融資であり,融資回収の見込みが乏しいため,このような融資を実行すべきではないと考えたこと,C被告Bは,本店長及びE(審査部長)を呼び出して,本件融資@を実行すべきではないと述べたが,Eらは,問題のある融資と認識しているが,理事長であるCの指示であり仕方ないと述べて,被告Bに対し,押印するよう依頼し,自分一人では反対ではどうにもならないと考えて,その与信申請書に押印して,融資の実行を承認したことが認められる。
なお,被告Bは,本件融資@に係る与信申請書に押印したのは融資の実行後であると主張し,これに沿う証拠(丙14号証,被告B本人)もあるが,被告Bは,Eの背任被疑事件に係る捜査段階において,事後に押印したと供述しておらず,かえって,Eに対し,「こんな融資をするんじゃないと文句を言ってやりました」と供述し,また,「私が一人逆らったところで,どうせ融資は実行されるのだと思うと,仕方なく押したのでした」と供述しており,これは明らかに被告Bが,その融資の実行前の段階で,与信申請書の回付を受けたことを示しており,この点に関する被告Bの主張は採用できない。
(イ) 被告Bの監視義務違反の内容
そうすると,被告Bは,本件融資@の決裁・実行に係るCの職務執行が違法であり,かつ,東京商銀に損害を生じさせるものであることを知りながらこれを阻止すべき義務があったのに,かえって,本件融資@に係る与信申請書に押印して,その融資を承認したものであるから,被告Bは,常務理事としてCの違法な職務執行に関する監視義務を怠ったといわざるを得ない。
(ウ) 被告Bの主張
なお,被告Bは,前記のとおり,本件融資@は,当時の理事長であるCの積極的関与があったこと,審査担当者等の関与もあったことから,これを阻止することは不可能であったと主張し,証拠(被告B本人,丙14号証)によれば,被告BがCにアイワグループへの融資を止めるよう申し入れたことが認められる。
しかし,被告Bは,Cの違法な職務執行を認識した以上,単に反対の意思を表明するだけでは足りず,これを防止するためにあらゆる措置を講じるべきであるといえる。
すなわち,本件融資@が刑法上の背任罪に該当するおそれもある違法性の高い融資であり,また,前記第2の1(4)イ(ウ)のとおり,Cの経営責任を追及する代表訴訟が提起されていた状況の下,本件融資@を公にするなど述べて強く異議を唱えたり,少なくとも前記第2の1(4)イ(ア)のとおり,審査担当の常務理事であるEも本件融資@には消極的であった以上,他の理事に対しても本件融資@の問題点を伝えて,理事全員による反対を申し入れるなどの措置が考えられた。
さらには,このような違法性の高い融資が行われた以上,融資実行後においてもその速やかな回収を図るべきであったといえる。
しかるに,被告Bは,これらの必要な措置を講じないまま,結局,本件融資@を承認するに至ったのであるから,事前に反対の意思を表明していたとしても,そのことから善管注意義務及び忠実義務違反を免れるものではないと解することもやむを得ないというべきである。
イ 被告Aの監視義務違反
(ア) 被告Aの本件各融資の違法性に対する認識可能性
前記第2の1によれば,@Cは,前記第2の1(2)イ(ウ)のとおり,代表訴訟の提起による責任追及を免れる目的で,アイワグループに対する不良債権買取資金の融資を決裁し実行させたが,その与信申請書に被告Aは押印し,その内容を認識し得たこと,A被告Aは,前記第2の1(2)イ(エ)のとおり,パルパルに対する見返り融資16億円の与信申請書にも押印しており,その内容を認識し得たこと,B被告Aは,副理事長であり,融資審査員会の委員長であるところ,前記第2の1(3)アのとおり,東京商銀においては,同委員会は有名無実化し,上記の融資についても本来融資審査委員会の審理合議を要する案件でありながら,実際には審理合議を経ておらず,被告Aは当然にこのことを認識していたことなどからすると,被告Aは,Cによる違法な職務の執行を認識し得る状況にあったことが認められる。
(イ) 被告Aの監視義務違反の内容
そうすると,被告Aは,副理事長であり,前記(ア)の状況を踏まえると,融資審査委員会の開催を求め,審理合議が必要な融資案件について今後審理合議する体制を整え,あるいは理事会や他の理事を通じてCの職務執行の状況を調査し,今後Cの違法な職務執行を防止するよう努めるか,あるいは,本件各融資の実行後においても速やかにその回収を図るべきであったのに,そのような措置を講じなかった以上,被告Aについて,善管注意義務及び忠実義務違反が認められることはやむを得ないというべきである。
なお,被告Aは,本件各融資に反対したものの,@本件各融資に係る与信申請書を回付されたのは,融資実行後であり,既にその時点で融資を阻止することは不可能であったこと,A当時理事長であったCが本件各融資を積極的に進めており,これに反対してもその実行を阻止することはできなかったこと,B他の審査担当理事等も本件各融資を承認しており,これを阻止することが不可能であったことから,被告Aについて,善管注意義務及び忠実義務違反を認めることはできないと主張する。
この点,証拠(被告A本人,被告B本人,丙13号証ないし同15号証)及び弁論の全趣旨によれば,被告Aは,パルパルの16億円の融資に係る与信申請書の回付の際に,それが実行された後に押印するよう求められたこと,融資審査委員会の審理合議案件であるにもかかわらず,それが行われなかったことなどを不審に思い,Eなどに事情を確認したところ,同人は「上がやれというから仕方がないんです」と述べて被告Aに押印を求め,被告Aはそれを拒否していたが,Cが,被告Aに対し,与信申請書に押印しないことを非難し,解任等を示唆したため,やむなく押印したこと,本件各融資の与信申請書について,その実行後に承認をしたことが認められ,また,被告Aは,被告Bとともに,本件各融資の実行がされていた間,Cに対して,違法な職務執行の是正を求めたことも認められる。
しかし,前記ア(イ)と同様,本件各融資は,背任罪に該当するおそれがあり,違法性の程度が著しく高かったこと,Cに対する代表訴訟の提起もなされていたことなどの当時の状況を考慮すれば,被告Aが,理事会や総代会において,Cの違法な職務執行を明らかにして,その是正や場合によってはCの解任を求めることも可能であったといえる。
また,融資実行後であっても,本件各融資が背任罪に該当するおそれの高い違法なものであったことからすると,C及びDに対して,ことを公にするなどと強く異議を述べて,回収を図らせれば,その回収を図ることが全く不可能であったといえない。
よって,被告Aは,Cの職務執行の状況を調査し,可能なあらゆる是正措置を講ずるべき義務があったから,単に反対の意思を表明しただけでは足りず,その他の可能な是正措置を講じるか,あるいは事後的に本件各融資の承認を拒絶して,その速やかな回収を図るべきであったから,これらの履行を怠った点について,善管注意義務及び忠実義務違反を免れないと解することはやむを得ないというべきである。
3 被告らの監視義務違反と損害との因果関係の有無(争点2)
(1) 本件各融資に係る損害
前記第2の1(4)イ(イ)によれば,本件融資@に係る無担保未回収部分は,9018万9105円であり,前記第2の1(4)イ(イ)及び同ウ(イ)によれば,本件各融資に係る無担保未回収部分は,7億6931万0792円であると認められるところ,この無担保未回収部分は,前記1のとおり,回収不能であることは明白であるから,この無担保回収部分が損害となるといえる。すなわち,本件融資@に係る損害は9018万9105円であり,本件各融資に係る損害は,7億6931万0792円
(2) 被告らの善管注意義務及び忠実義務違反と損害との因果関係
ア 被告Bの善管注意義務及び忠実義務違反と損害との因果関係
被告Bは,前記2(2)ア(イ)のとおり,本件融資@の実行を阻止すべきであったのにこれを承認したのであって,被告Bの善管注意義務及び忠実義務違反から,本件融資@が実行され,それが回収不能に陥ったことは明らかであるから,本件融資@に係る損害(9018万9105円)と被告Bの善管注意義務及び忠実義務違反との間に相当因果関係があるというべきである。
なお,被告Bは,本件融資@に反対しても,C及びその他の審査担当理事が本件融資@を承認していた以上,これを阻止することは不可能であり,被告Bの監視義務違反と損害との間に相当因果関係がないと主張する。
しかし,前記2(2)ア(ウ)のとおり,本件融資@の違法性の程度,代表訴訟が提起されていたことなどの当時の状況からみて,被告Bが,これを公にするなどと述べて強く異議を述べるか,あるいは実際にも本件融資@が行われる状況にあることを公にすることにより,それを防止することはできたというべきであり,本件において,必要なあらゆる措置を講じても,本件融資@を阻止し,あるいはその回収を図ることができなかったとまで認めることはできないから,被告Bの主張は採用できない。
イ 被告A
被告Aは,前記2(2)イ(イ)のとおり,Cの違法な職務執行の状況を調査し,さらに融資審査委員会を開催するなどして,融資審査の適切な体制を構築し,Cの違法な職務執行の状況を明らかにして,理事会や総代会におけるCの解任や代表訴訟の提起を含む同人の違法な職務執行の是正のために必要なあらゆる措置を講ずべきであったのにこれを怠って,その結果,本件各融資が実行され,かつ,その後速やかな回収を図らなかった以上,本件各融資に係る損害(7億6931万0792円)と被告Aの善管注意義務及び忠実義務違反の間には相当因果関係があるというべきである。
なお,被告Aは,C及びその他の審査担当理事が本件各融資を承認していた以上,これを阻止することは不可能であり,また,理事会による監督や総代会による解任など不可能であったから,被告Aの監視義務違反と損害との間に相当因果関係がないと主張する。
しかし,前記アのとおり,本件各融資の違法性の程度,代表訴訟が提起されていたことなどの当時の状況からみて,被告Aが,これを公にするなどと述べて強く異議を述べるか,あるいは実際にも本件各融資が行われる状況にあることを総代会等において公にすることにより,それを防止することはできたというべきであり,本件において,必要なあらゆる措置を講じても,本件各融資を阻止しあるいはその回収を図ることができなかったとまで認めることはできないから,被告Aの主張は採用できない。
4 結論
以上によれば,原告引受人の原告引受人の被告らに対する本件各請求は理由があるからいずれも認容し,訴訟費用について民事訴訟法61条,65条1項を適用し,仮執行宣言について民事訴訟法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。

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